偏差値38の長距離未経験者が中央大学主将として箱根駅伝を走る物語

エリートのみが集まる世界に、凡人が飛び込む

小説

#30「箱根駅伝」終

少し寒さを感じながら目が覚める。まだ外は薄暗い。着替えを済ませてホテルから出る。 この街にはまるで自分しかいないような静けさ。朝日も上っておらず、街灯だけを頼りに走る。聞こえるのは自分の呼吸だけ、この4年間を思い返しながら走っていた。 全く走…

#26「98代目中大魂」

大学の名前が入ったものを着させてもらえず選手寮にも入れない、準部員だった人間が、まもなく創部100年を迎えるチームの主将となる。 箱根駅伝最多優勝、最多連続出場の記録を持ち、名だたる先輩たちが偉業を成してきた伝統あるチームを引っ張っていく存在…

#25「はこ根駅伝」

年が明け箱根駅伝が訪れる。 チームとしては2年ぶりの箱根駅伝、新しい一歩を踏み出す。 私は補欠のメンバーとなり、箱根駅伝出場は一歩届かずお預けになる。3区を走る中山の付き添いになった。 当日は晴れ、中継所には各大学の選手が集まる。話したことはな…

#24「反発係数1以上」

夏が明ける。 走力も精神的な強さも身につけたことを実感していた。個人としてもチームとしても、戦う準備は整っている。私自身、箱根駅伝予選会を走る準備は出来ている。 しかし、私は選手として選ばれなかった。悔しさを抑え、チームのサポートを全力で取…

#23「準部員」

早いもので大学生活も3年目に入る。 相変わらず中山との差は縮まらない一方であった。その状況に指をくわえて眺めている自分でもない。 6月の5000mの記録会で中山と同じ組みで走ることとなった。練習もバラバラでやることが多かったので、同じレースを走るの…

#22「はこねえきでん」

年が明け箱根駅伝が訪れる。 予選会で負けた私たちはチームとして箱根駅伝に出れない。選抜チームに選ばれたチームメイトを応援することしかできない。走路員として大会の補助員になり、沿道に立ち、他大学が走ってくる姿を見つめる。 テレビで見る箱根駅伝…

#20「44秒」

私は目の前に広がっている光景に何もできずにただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。 数百人に及ぶ群衆に囲まれる。 私たちは予選会を1位で通過したわけでもなく、数年ぶりに箱根駅伝への出場を決めたわけでもない。しかし、今この空間で1番注目を浴び…

#16「努力とは何か」

授業の合間をぬって順調に練習を積めていた。 準部員として活動し始めてから3ヶ月が経ち、5000mの記録会に出ることになった。それまで良い練習が積めていたことと私にとって未知の世界でもあったため、ここで14分台を出して正式な部員になれると自信に満ちて…

#15「マッド・サイエンティスト」

私にはまだまだ多くの試練がある。 それは学業との両立である。理工学部に所属している私は、練習拠点の近くの多摩で授業を受けるチームメイトとは違い、都心にあるキャンパスまで片道1時間かけて通学しなければならない。 朝4時に起床し練習、夜7時に帰宅し…