偏差値38の長距離未経験者が中央大学主将として箱根駅伝を走る物語

エリートのみが集まる世界に、凡人が飛び込む

#20「44秒」

私は目の前に広がっている光景に何もできずにただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

 

数百人に及ぶ群衆に囲まれる。

私たちは予選会を1位で通過したわけでもなく、数年ぶりに箱根駅伝への出場を決めたわけでもない。しかし、今この空間で1番注目を浴びているのは間違いなかった。

注目されているがもちろん楽しそうではない、むしろお通夜のように悲壮感が漂っている。それにも関わらず人が大勢いる。なんとも異様な光景であった。

その群衆の中心には選手がいる。

いろいろなことを教えてくれた先輩達が、まるで悪い事でもしたかのような表情で下を向いている。なぜだ、悪いことなど1つもしていない、精一杯頑張っていた。夏の練習も、試合も必死に盛り上げてくれていたではないか。

その状況に悔しがることしか出来ない自分の無力さを感じていた。

いくら頑張っていても、結果が出なければ意味がない。勝負の世界の厳しさを知る。

私たちは44秒足りず、箱根駅伝連続出場を87回で途切れさせてしまった。連日ニュースに取り上げられる。

箱根駅伝の注目度、プレッシャー。

またひとつ箱根駅伝を知ることとなる。

 

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